初めに闇があった


星に背いて君を追う

夢から覚めるように意識が収束していく。
アルカディアの王宮によく似た景色。
私はレオンティウスに討たれたのではなかったのか?
ここは――?

「スコルピオス殿下!こちらにいらっしゃったのですか!」

聞き覚えのある声に振り返ると私を呼んだ男が嬉しげに表情を崩した。
肌に覚えのあるざわついた空気。
生まれてくる存在を祝福する花や細工がいたるところに飾られている。
まさか――期待が足をはやらせ、否定する理性がそれに拍車を掛ける。
回廊を走り抜け、間違えようも無く見覚えのある部屋に飛び込んだ。
よく知っている場所だ。

「まあ、殿下。来てくださったのですね。」

穏やかな女の声が私を迎えた。

「ご覧下さい。新しい雷神の民です――名をレオンティウスと授かりました」

息を切らす私に差し出された両手。
そこに抱かれた小さな命。
柔らかな布に包まれた力無い赤子はこちらを見て笑った。
訪れた不幸な未来も知らず、ただ私に笑いかけていた。
それだけで涙が止まらなかった。


すべてが記憶のままに存在する中で、ただ一つ覚えの無い新たな想い。



ミラよ。胸を締め付けるようにこみ上げてくるこの感情は、いったい何と言えばいいのだろう。





(20091009)