エレフのためなら忌まわしい立場すら利用する感じで。




-------------



「神官様の命令だ、女は生かして捕らえろ!男は殺してかまわん!」

よほど頭が悪いのか、それとも自信があるのか。
大声で交わされる追っ手たちの会話は内容までこちらに筒抜けであり、暗い森の中で奴らがいる方向を避けるのに一役かっていた。
とはいっても怒鳴る彼らは囮で、他に声を殺して着いてきている追跡者がいないとは限らないから周囲の気配を探るのに気を抜くことはできないけれど。

囮。

そう、問題は囮だ。
奴らの会話を聞いてミーシャが自分から囮になると言い出した。
ここまで計算して俺達に聞かせたのなら奴らも大したものだ。

「だって三人捕まって二人殺されるよりも、一人捕まって三人生きたほうが良いでしょ?」

その理屈は正しい。
ただ俺だけが、俺もまたその捕まる一人になれることを知っている。

「ダメだ!」
「もちろん素直に捕まるつもりなんてないわ。全員ひきつけて、全員振り切ってみせるから」
「無理に決まってるだろ!」
「大丈夫。エレフ、大丈夫だよ。―オリオンさん、エレフの事をお願いします」
「…わかった」
「オリオン!」

ミーシャがエレフを抱きしめる。
エレフは俺に掴みかかろうとしていた体を硬直させ、それが全てを分ける決定的な隙になった。

「エレフ、またね」

走り出るミーシャ。

「いたぞ、捕らえろ!」
「ミーシャ!」
「叫ぶなバカ!」 「隊長!あちらにも!」
「二手に分かれろ!女が優先だ!」

繁みの細い枝が無理やり折られる音に、俺はエレフの手を掴んで走り出した。
方角も分からないまま、ただ奴らの声と反対に走る。
目の前に線を引いたように光が射した。

しまった――森が終わる。

だけど今更止まることも出来ず、もう曲がる事も出来ない。
駆け抜けた先で急に視界が開け、月明かりに浮かんだ光景に奴らの狙いを知った。
最悪だ。

そこは突き出るように海に向かってたった、狭い崖の上だった。




身を隠すものを全て失った俺達にわざとらしく走る速度を緩めて奴らが近づいてくる。
顔を真っ赤にした追っ手の一人が鬱屈した感情をぶつけるように笑った。

「ちっクソガキどもが。どうせお前ら戻ったら殺されるんだ。今すぐ殺してやるよ」






『だって三人捕まって二人殺されるよりも、一人捕まって三人生きたほうが良いでしょ?』

その理屈は正しい。
ただ俺だけが、俺もまたその捕まる一人になれることを知っていて、だけどそれを言うことはできなかった。




ならば俺は、三人捕まって一人殺されるよりも、二人捕まって三人生きる可能性に賭けよう。
一瞬で振り返り、、目の前の身体を力の限り突き飛ばした。
驚きに伸ばされた手は取らない。
エレフの身体は宙に浮きそのまま黒い海に吸い込まれるように落ちていく。

「このガキぃいっ!」

追い詰めたと確信していた獲物に逃げられ、頭に血が上った男が飛び掛ってくる。
避けるのは容易いが、事ここに及んで徒に体力を使うのも馬鹿馬鹿しい。
襟元から標を掴みだし追っ手に突きつける。


「止まれ!俺を誰だと思っている!」


小さな指輪だが彫られている意匠は都に住む全ての人間が知るものだ。

「その印は」

忌み子の噂に思い至ったのだろう。
追っ手達の顔色が文字通り見る間に青ざめていく。

「俺を見逃すならおとなしく奴隷に戻ってやる」
「忌み子が…!殺してしまえば証拠は残らぬ!」

声には嫌悪と侮蔑が隠すことなく溢れていて、いっそ笑いすらこみ上げてくる。






「殺す?俺をか?殺して済むなら生まれた直後に殺されてる。俺が生かされている意味を考えてみろよ。
俺を殺したら、お前―死ぬぞ?」



-------------





こんな感じ。
相変わらずオリオンのスペックアップに余念がないです。


ちなみにミーシャは連れ戻される最中にも全力で抵抗。
騒ぎの甲斐あって途中でレスボス島の巫女の目に止まる。
「おまちなさい」
「なぜ彼女のような小さな子供に乱暴を?」
「はっ、この者は奴隷の身でありながら分をわきまえず主に逆らい、あまつさえ逃亡を計ったのです」
「そう。それだけ?」
「それだけどは…」
「それだけなのね?」
「お言葉ですが奴隷にとって」
「黙りなさい。彼女は私が預かります」
「神官様!」
「よろしいですね」
「…はい」

こんな感じでレスボス島に連れて行かれる途中、嵐にあって船から落ちる
→浜辺でフィリスに拾われる
最初に助けてくれた巫女とは後に再会して仲良しに、とかだと良いなと思う。

崖から落ちたエレフは気絶→師匠に拾われる。