大好きよ
「おかしいわね。エレフの夢に行くつもりだったのに」
自分とエレフの夢は似ている。どっちも菫の色。おとうさんの夢は昼の湖の色、おかあさんの夢は葉っぱの色。
だけど私が今いるのは金色の夢。辺りを見回しても誰もいない。
「ここはどこかしら?」
呟くと後ろから声が返ってきた。
「…君は?」
驚いて振り返るとそこにいたのは男の人。見たこともないほど綺麗な人だったのでまた驚いた。
なんてきらきらしてるんだろう。
「こんにちは素敵な金の髪のお兄様。突然でごめんなさい。でも迷っただけなの、怒らないでね。」
「こんにちはかわいいお姫様。すばらしい出会いを喜びこそすれ、怒ったりなんてしないよ。」
にっこり笑った顔もとても綺麗。まるで物語りに出てくる王子様みたい。
「どこにいくつもりだったの?」
「エレフのところ」
「エレフ?」
「わたしのおにいちゃん。いつもこうやって夢の中でも遊ぶの」
「そう。じゃあお姫様はもう行ってしまうのかな?」
その人があんまり寂しそうに見えたから私は慌てて首を振った。
「ううん!ここから行く方法がわからないし、よければお兄様遊んでくださらない?」
「もちろん喜んで」
「ありがとう!」
落ち着いてみると初めてきた夢とは言え夢は夢だということが分かった。
エレフと遊ぶときのように森や湖を思い浮かべると景色がその通りに変わる。
その湖のほとりに並んで座って私たちはおしゃべりをしていた。
「いつもはどんな遊びをしてるの?」
「木に登ったり、湖で水遊びをしたり、お花を摘んだりしてるわ」
「楽しそうだね。でも木登りは危なくないかい?」
「エレフもいつもそう言うわ。危ないのは自分だけなのに」
全然危なくなんかないし、いつもと違った眺めはとっても素敵なのにどうしていつもエレフは泣きそうになるんだろう。きっとエレフは低いところまでしかのぼれないからわからないんだわ。
「…君が、のぼるの?」
お兄様はとてもびっくりした顔をしていた。
「そうよ?」
「…はははっ!勇敢なお姫様だ!」
一瞬うつむき、それからはじけ飛ぶようにお兄様は笑いだした。
「お兄様?」
「うん、ははは!」
止まらないらしい。
お兄様が笑ってくれるのは嬉しいけど、なんだかこれはちょっと違う気がする。
おとうさんがこんな風になったとき、おかあさんはなんて言ってたっけ。
たしか
「お兄様、ジョセイ対してシツレイよ」
「はははははははっ!」
・・・おかしいわ。
おとうさんはこれですぐに静かになるのにお兄様はなぜかもっと笑い出してしまった。なにが違ったのだろう。
おなかを抱えだしたお兄様を成す術なく見守っていると不意に馴染み深い感覚が訪れた。
「あ」
「どうしたミーシャ?」
「目が覚めるわ」
お兄様も気付いたらしく世界を見上げてため息を吐いた後、膝を折って私に高さを合わせてくれた。
「残念だな、お別れか。」
頭にやさしく手が置かれる。
「来てくれてありがとう。とても楽しかったよ」
「わたしもよ!また来てもいいかしら?」
「もちろん。歓迎するよ」
「ありがとう!絶対また来るわ!」
穏やかな揺れに目を覚ますと視界いっぱいに広がる自分の顔、もとい自分にそっくりな双子の兄の顔。
「ミーシャ!」
今にも泣き出しそうな表情を見るとやっぱり自分が妹であることに納得がいかない。たぶんおかあさんとおとうさんが間違えたんだと思う。きっともうすぐ、実は弟と妹を決めるのを間違えたのごめんね、本当はミーシャがお姉ちゃんなのよと言われるに違いない。今年の誕生日に言われなかったからきっと次の誕生日にだ。
「エレフ」
「なかなか起きないから心配したんだよ!」
「ちょっと寝坊しただけじゃない。心配性ね。」
「だってミーシャがずっと起きなかったら僕、僕…!」
「はいはい、ごめんなさいね。おはようエレフ、今日は何して遊ぶ?」
目に水がいっぱい溜まったエレフを見て私はにっこり笑う。
「えへ、おはようミーシャ。今日はお花を摘みに行こうよ!」
だって情けないこの兄は私が笑えば笑うのだ。