(少年の話)


終端の王の騎士

今日は星がよく見えた。
僕は悪くないのにおとうさんに怒られた。
頭にきたから飛び出して秘密基地に行った。
森の奥にぽつんとある城は入り口の無い壁に囲まれていて誰も入れない。
でも実は秘密の入り口があって、それは僕だけが知っている。
いつものように抜け道を進むと草が生え放題になっている中庭に誰かがいた。

何で。誰も入れないはずなのに。

秘密の入り口だって通れるとは思えない。
僕ぐらいの大きさでギリギリなんだから、あんな大人の男の人が通れるわけがない。
その男は僕に気付く様子もなく、まん丸な月を見上げて何か呟いている。

―仕上げだ

風に乗って聞こえてきた男の声はとてもキレイだった。
声に色があるならこの人の声は多分きらきらした黒色をしているに違いない。
男がゆっくりと自分の手を上げ自分の顔を覆う。
時間が止まったみたいに風の音が消え、男は草の上に倒れた。

ひやりとした風が首の後ろを抜けるのを感じて、ようやく僕は動けるようになった。
僕は走って逃げ出した。
あれは見てはいけないものだったんだ。
怖くて一度も振り返れなかった。
その日から僕は一度もあの城に行ってない。

男がどうなったのかは知らない。