星追十題

01.他の誰かと同列でなければ傍にいてはいけませんか



『アルカディア第一王子』

それが私に与えられた配役。

私には義兄がいる。
それでも私が第一王子だという現実は覆らない。

ポルデウケスが羨ましい。
義兄上と剣の稽古をしている。
カストルが羨ましい。
義兄上に呼ばれて手伝いをしにいった。
デルフィナが羨ましい。
義兄上から何か頼まれていた。

義兄上は城のものに分け隔てなく接する。
だから城内には義兄上を慕うものも多い。

義兄上は城のものには分け隔てなく接する。
その中に私は入っていない。

なぜ私が第一王子なんだ。
義兄上こそが王に相応しいというのに。


なのに第一王子というだけで私は義兄上の側から遠ざかるのだ。








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02.自分だけのものだと勘違いをさせてくれませんか



人の噂に無知で入られる時期は短かった。
義兄上が陰でどのように言われているかを知った。
義兄上を含む私の周りの人間がそれを隠そうとしていることも。
聡い方だから、義兄上は私が気付いていることも、母上たちのためにそれを隠そうとしていることも知っていたのだろう。
時々悲しそうに私を見る。

庭園の端。
日のあたらない木の後ろで隠れるように休んでいる義兄上を見つけたのは偶然でしかなかった。


「義兄上、風邪を召されてしまいますよ」
「…レオンか。」
「はい。」
「こっちへ来い。――そう。ここに座れ。――子どもは温かいな」
「義兄上……」


私はもう子どもではありません。


子どものように膝の間に抱えられ、幸せなだけだった時代に想いを馳せながら言葉を飲み込む。
今だけはあの頃と同じように感じていたかった。


子どもではいられなくなったのです。


だからこそ、望外に得られたこの大切なひと時を。
子どものように貴方と過ごせる時間を。
この瞬間だけは









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03.優しい言葉ばかりを重ねれば笑ってくれますか



神殿ではまず見ることの無い燃えるような緋だった。
触れたら火傷してしまいそうな後姿に、声をかけずにはいられなかった。

「失礼ですがスコルピオス殿下でいらっしゃいますか?」
「…何故わかった?」
「髪の色でもしやと。レオンお兄様の仰った通り、本当に綺麗な色ですね」
「貴様、レオンティウスの知り合いか?」
「直接お会いしたのは一度きりですが、私も巫女の端くれです。幼い頃、夢の世界を通して何度かお話をさせていだきました」
「そうか。お前がポリュデウケスの子か」
「お父様をご存知なのですか?」
「古い、知り合いだ。名は?」
「申し遅れました。私は星女神に仕える巫女、アルテミシアと申します」
「アルテミシア、私に何か望みはあるか?」
「いえ、今は」
「ならば、いずれ」
「はい、その時はよろしくお願いします」

レオンお兄様と同じように悲しい目をしていたから、お兄様とは呼べなかった。
どれだけ思っても言ってはいけない言葉だった。
家族らしい事なんて言えなかったし言われなかった。
けれど貴方は独りでないということを伝えたかったから、殿下がいらっしゃる度に私は笑顔で迎えた。



あの時お兄様と呼べていれば何かが変わっていたのだろうか。









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04.思い出を積み上げたらこの隙間は埋まりますか



たまに何を考えているのか分からないことがある。
いや、たまにどころではない。
常にだ。

常に何を考えているのかよく分からないこの男の難解さは寡黙と称される口数の少なさからくるのか、それとも偽悪的な態度がそう写るのか。

「どうしたオリオン?」
「いや、以心伝心までは遠いなぁと思って」
「くだらん。お前は言われたことだけをやればいい」
「言われたことしか出来ない能無しと一緒にしないでよ」
「そんな能無しはとうの昔に相応の仕事につけてある」

俺のこと一瞥もしないでこれだもんな。
なんて酷い上司なんだ。

「馬鹿な事言ってないで早くその懸案を終わらせろ」
「っつってもさー。アンタそれなりに偉いんだろ?何でこんなに机仕事が多いんだよ!」
「偉いからだ」

切って捨てるような一言はまさにその通りで反論のしようもない。
いつもの事とはいえ山のように積み重なる未処理の案件は見るだけで体力が奪われる気がする。

「あー、もう無理。休憩。殿下、飲み物もらってくるけど何かいる?」

椅子を立って固まった腕と肩を伸ばしながら一応聞くとなぜかバッチリ目が合った。
仕事中は滅多に顔を上げないのに珍しい。
何より、

「…何でそんな驚いた顔してるのさ」
「よく分かったな」
「は?」
「いや、何でもない。私も休憩を挟もうと思っていたところだ。適当に何か持って来い」
「偉そうな言い方」
「偉いんだ」
「はいはい、適当にね。了解ですスコルピオス王子殿下様殿」

ささやかな仕返しとして思いつく限りの敬称をつけて呼び、怒られる前に部屋を出た。
廊下を早足で駆け抜け調理場へ続く角を曲がる。

ここまで来れば大丈夫だろうか。

周囲に人がいないことを確認し、俺は壁にもたれかかった。
何なんだあの不意打ちは。

まるで少し距離が縮まったような錯覚。
まるで少し溝が埋まったかのような幻覚。

俺の努力は無駄じゃないと勘違いしてしまいそうな感覚。


それとも








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05.追うように動いた視線は何を求めていたのですか



密命を受け、俺は王を射た。
『手遅れになる前に』
徐々に狂っていく王が、束の間正気を取り戻したとき告げた最後の望みだった。

アンタは少し考えて、結局頷いた。
王位簒奪を企て謀反を起こす。
継承権を奪われた妾腹の王子の行動として、いかにもだと周りは納得するだろう。
実際、アンタはほんのつい最近までそのためにすべてを費やしていたからな。

やっと諦められたのにな。
せっかくミーシャが憎しみを開放してくれたのに。
なんて皮肉な巡り合わせなんだろう。

だから俺は自分からその『役』をやると言った。
アンタの命と名誉を守るため、命をかけることにした。

誰のものともわからぬ悲鳴があがり、凍っていたような時間が動き出す。
兵士達が駆けつけてくるまでのわずかな時間。
アンタは何を考えたんだろう。
足音が近づいてくる。
まだだ。
まだ遠い。
もう少し引き付けてからでないと意味がない。
俺に残された最後の時間。

「もう充分だ。早く逃げろ」

小声で急かされ思い浮かべてしまった。

逃げる。
いいなぁ、それ。
逃げて、生きて。
今度こそエレフのところに行ってあのバカ殴って。
ほとぼりが冷めた頃にアンタに会いにくればいい。
それ、いいなぁ。

でも。

「無理だよ。」

間近で捕らえた瞳には、場違いに笑う男が映っていた。
結構穏やかな顔できてるじゃん、俺。
回廊に響き渡るよう、意識して通る声を出す。

「その通りだスコルピオス!ひと時は奴隷の身であったとはいえ、他国の王の血に連なるこの私が、何故お前のような妾腹の王子に使えていたと思う? 決まっているだろう!それは一重にこの時のため他ならない!」

「オリオン!」

焦るような制止は裏切り者への糾弾のように聞こえるだろう。

「惜しむらくは、最後の仕上げを前にお前に正体を暴かれてしまったという点に尽きるが、事ここに至っては無駄な足掻きも見苦しい。さあ、殺すがいい!」

「馬鹿な事を!」

セリフ、ちょっとワザとらしすぎたかな?
だって犯人逃がしたらアンタの汚点になるだろう。
抵抗の意思無しと示すため俺は両手を広げる。
賢いアンタの事だ、どう転んだってもう間に合わないことには気付いているだろう?

「殿下。どうせ殺されるならアンタの手で。――頼むよ」

拷問なんてまっぴらだ。
アンタにだけ向けて祈る。

心を決めたように握り直された剣の切っ先が俺の胸をまっすぐに貫いた。
なんて面してるんだか。
血筋なんじゃねぇの。

不細工な面で剣を引き抜いたアンタの視線は俺を通り越し、窓を通り越し、血に塗れた王様を通り越し――

全く。
死にゆく俺に気遣いとか出来ないのかね。

全く。
こんな時でさえアンタが気にするのは一人だけなんだよな。


全く。








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06.一瞬だけ与えた温度で永遠を奪っていくのですか



オリオンが父上を殺すなど信じられなかった。
彼は罠に嵌められたのだ。
私の推測を裏付けるように、事の真相を追えば追うほど彼に指示を出していた何者かの存在が浮かび上がり――同時にすべての痕跡がある人物を示していた。

世界よりずっと残酷な事実だった。

「義兄上」
「待ち侘びたぞ。供は連れてこなかったのか?」

王族だけが入ることを許された離宮。
一振りの剣を手に義兄上は立っていた。

「貴方が」

遮るように剣が抜かれ私に向けられる。

「気付かなければ悲しむだけで済んだものを」
「あれほど貴方を示す証拠を残しておきながら、そのようなことを仰るのか!」

黒幕と義兄上を繋げる道はもっと巧妙に隠すこともできたはずだ。
見つけろとばかりの杜撰な細工しか施さないまま、気付かなければ、とはどこまで人を侮れば気が済むのだ。

「そうだな。事情が分からぬまま殺されるのでは納得がいくまい」
「義兄上、私の話を――」
「お前の考えた通りだ。レオンティウス、第一王子の座を奪ったお前が憎かったよ。正腹だからといとも容易くそれを成した王もな。 私は王になるために力をつけ実行した。オリオンはただの捨て駒に過ぎん。これが聞きたかった事だな?」

真相は認めたくないと目をそむけ続けていたものばかりだった。
嫌だ。
そんなの嫌だ。

「嘘を!」

義兄上は私の激高をものともせずに笑った。

「ああ、嘘だ。お前のことはもう憎んでいないし、父上のことはアルカディアを守るためにはあれしか道がなかった。オリオンは私を庇って死んだ」
「…嘘、でしょう…?」
「そうだな。これも嘘かもしれない。だが、そんなことはどうでもいい。」

義兄上が示したのは離宮の中央に飾られた宝物。
雷神に連なるものだけが扱うことのできる神の槍。

「レオンティウス、構えろ」


何が本当かわからない。
義兄上が振りかぶった剣を狙い私は槍を突き出した。
交錯は一度だけ。
わからない。
なぜ。

なぜ義兄上は剣を離したのか。

――レオン、こんなに、大きくなっていたのだな

温もりは刹那にも満たなかった。
剣を離した右手が撫でるように頭をかすめたのは偶然なのだろうか。
本当かどうかわからない。

わかっているのは一つだけ。


なんて残酷な人なんだろう。



そうやって









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07.浅ましい想いばかりのぼくでは汚してしまうだけですか



流れ出る血が止まらない。
義兄上の血が止まらない。

赤い水溜まりに沈むだけの義兄上はもう私に話しかけることは無いし私を無視することも無い。
私を見ることも無いし私を憎むことも無い。
私に剣を向けることも私を殺そうとすることも、もう無い。
完璧な決別。
幼い頃から後を追い続け、結局追いつく前に手の届かないところへ行ってしまった。

ミーシャが、ほんの少しだけ羨ましい。
オリオンが、ほんの少しだけ羨ましい。

なんてことだ。
笑えるくらいに自分は成長していないではないか。
あの二人がどんな想いで命を落としたのかそんなことも知らずに。

ほんの少し。
けれどそれは紛れも無い本気で。
望みに対してだけは高潔であり続けた貴方に対して、どれほどまでに私は身勝手なのだろう。

流れ出る涙が止まらない。

もう打ち明けてもいいですか?
憧れというほど純粋ではなく、恋というほど前向きでもない。
けれど言葉にできないほどの









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08.それでもと考えてしまうのは愚かですか



「レオンお兄様!よかった……!」
「……ミーシャ?」

どうしてだか妹が涙ぐみながら歓喜の表情を浮かべていた。

最初は夢だと思った。
かわいいあの子がまた遊びに来てくれた。
今日は何を話そう。
将軍の話をまた聞かせて欲しい。
今にも泣き出しそうなのはまたどこかで道にでも迷ったのだろうか?
静かな山にぽつんと残された二つの墓標と家の焼け跡を思い出し、違うとわかった。

それから夢だと思った。
軽率な自分が招いてしまった悲劇。
数え切れないほど悔やみ、眠れぬ夜を過ごした。
気絶するように意識を失うと必ず悲しそうに私を見つめるあの子の幻影が現れた。
久しぶりに彼女のこんなにも喜びに溢れた笑顔を見ることができてよかった。
神に捧げられた聖なる巫女の名を思い出し、違うとわかった。

だったらこれは――

「いつまでぼーっとしてるんだレオンティウス!」
「――っ」

衝撃が走った。叩かれた、と痛む頭を抑えながら振り返ると予想もしなかった人物がいた。

「アレクサンドラ、何故?」
「何故だと!?寝言が出るようならもう一度寝ろ!」

そうだ、この声だ。
意識が途切れる直前、置いて逝くなと最後に聞こえてきたのはこの声だ。
彼女は私を見下ろしながら誇らしげに胸を張りなおした。

「ふん、まぁいい。これで借りは返したからな」

その言葉でようやく状況が飲み込めてきた。
何もかも夢ではなかった。

「――貴女が来てくれたんだな」
「大幅に予定は狂ったがな!」

加勢して恩を売るつもりだったのに!と髪が乱れるのも気にせず頭を掻きだした彼女に自然と顔が綻ぶ。

「賭けではあったけど、貴女ならきっと私を助けてくれると信じていた」
「なっ――!」

彼女は言葉に詰まったまま結局何も言うことなく顔を赤くして出て行ってしまった。
同盟国でもないのに勝手に期待して怒らせてしまったのかもしれない。
閉まった扉から視線を戻すと今まで一言も発しなかったもう一人の存在に気付いた。

「――エレフ?」

名前を呼ぶと怯えたように肩がはねる。
気まずげに顔を逸らしているエレフの腕をミーシャが引っ張り、容赦なく私の前に押し出した。
昔にくらべて大分身長差ができてしまっているが、やっぱりミーシャの方が強いらしい。

「エレフ。ほら、ちゃんとレオンお兄様に謝って」
「う……」

エレフは最後の抵抗とばかりにこれ以上ないくらいに首を後ろへ向け続けている。

「エレフ!」
「……わかってるよ。レオン……なんか、色々ごめんなさい」

複雑な表情を浮かべながら顔を歪ませてエレフは深々と頭を下げた。
憑き物が落ちたように穏やかな彼を見て万感の思いが込み上げる。
この子はもう捉われてはいない。

「いいんだよエレフ。もういいんだ」

段々ここが何処だかわかってきた。
死んだはずのあの子、死すべき地へ訪れた彼女、死なせたくなかった彼、死んだであろう自分。
――冥府とはこんなにも幸せなところだったのか。
ならばあの人にも会えるだろうか。会えるものなら会って謝りたい。理解するための努力を最後に私から放棄してしまった。 すれ違ったまま誤解を解けなかった。私のせいで生を狂わせてしまった、敬愛なる――

沈むだけの螺旋に陥りそうになっていた思考の渦がノックの音によって断ち切られた。

「私だ、入っていいか?」
「もちろんです、どうぞ!」

扉の向こうから掛けられた声が、今まさに思い浮かべていた人のものに似ていて心臓が止まりそうになった。
そんな都合のいい展開があっていいのだろうか。
ミーシャの返事を受けて扉が開いていく。

「失礼する」
「義兄上……?」

顔を見ても信じきれず恐る恐る尋ねると、瞬く間に彼の眉間に皺が寄り射抜くような視線を向けられた。
あぁ、怒っている。
久しく見る事の無かった本気で怒っている時の目だ。
私が悪いときの目だ。

「この愚か者が!」

怒号が空気を振るわせた。
ミーシャとエレフは予想していたのか二人とも両手で耳をふさいでいる。
軽く眩暈を起こしながらずるいだとか、そっくりだとか思っていると義兄上は足早に寝台の隣まで来て私の頭を掴んだ。 そのまま力ずくで上を向かされ義兄上の怒りに満ちた顔と向き合う。

「若造が大層な説教をしたらしいな。ハッ、笑わせてくれる。いいか、お前に言いたい事は山ほどある。すぐに傷を治せ」
「傷…?」
ここは冥府なのだからそんなもの――

眉間の皺を一本増やした義兄上の次の動作は流れるように自然で、避けようとも止めようとすら思えなかった。
ねじ込むように腹に落とされた拳。
痛みを超えた熱と衝撃が全身を走り視界が白く染まる。

「――っっ!?」

遠のく意識の片隅に、血相を変えて駆けて来る愛しい弟妹の姿を捉えた。
相変わらず無茶苦茶な事をする人だ。

「起きたら説明してやる。寝ろ」

滅多に無い優しい声が耳を撫で、私は安心して気を失っ――




ああ、暗い。




そう、例えばある小さな島で。
あの子と彼女と少年とは呼べなくなったほど成長した彼と。
あの子が死んだというのは嘘で、彼女が助けに来てくれて、彼の悲しみは解けて。
そこには義兄上もいて。

ささやかな望みなんて呼べるはずもない。
命を懸けていいと思えるほどの大それた願望だ。
そして叶わなかった幻だ。

けれど、もしかしたらと。
選べた未来だったのかもしれないと。
有りえた筋道だったのかもしれないと。
遠のく意識の中でさえ、そんなふうに









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09.どれだけの運命を超えればきみと一緒にいられますか



ひとつ
ふたつ
みっつ
よっつ
いつつ
むっつ
ななつ
やっつ
此処の津をとばし
答に繋がる









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10.ほんとうの願いを口にしてもいいですか



『殿下、お強くなられましたな』
(ポルデウケス、私はまだ伸びるぞ)

『すげーなアンタ。アンタとならマジで世界をとれそうだ』
(当たり前だ。それまで全力で私に尽くせオリオン)

『私は貴方の右腕になるために…!』
(レオンティウス、何故お前が泣いている)

『私達、神託がなければもっと幸せなかたちで出会えていましたか?』
(名乗る事ができなかった義妹と会うことの叶わなかった義弟の)


私の元から去った人間が示し合わせたかのように浮かべていたあの表情。
憐れみでも侮蔑でも嘲りでもなかった。
やっと解った。
けれど同時に全ては遅すぎた。



あの時に帰れたら。




あの日に戻れたら。




















































ああ わたしには もっと なにかができた はず だったのに









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