01.嘘のまま終われば良かったのに
いつも通りの場所で二人を見つけ声をかける。
「二人ともこんにちは」
「こんにちは」
嘘で覆い隠された神託と、嘘で隠れ凌いだ処刑。
人が神についた嘘で殺されかけ、人が世界ついた嘘で生かされた私たち。
そして作られた嘘の家族。
幸せな家族。
本当のお父さんとお母さんじゃないだなんて、関係ないわ。
ううん、デメトリウス陛下とイサドラ王妃様を嫌いなわけじゃない。
あの方たちが私たちを愛してくれていたこと。
必死の願いで私たちを生かしてくれたこと。
身を切るような思いで私たちと別れたこと。
全部知っている。
でも『本当』はお父さんとお母さんが私たちのお父さんとお母さんじゃないというのなら、それなら嘘がいい。
私は嘘の家族がいい。
「エレフ、いる?」
「エレフはいない」
何度尋ねても変わらない答えを聞いて安心する、その行為を幾度となく繰り返す。
死すべき存在である以上、いつか必ずその日が来るというのに。
そして彼が本当につらい思いをするのはこちら側に来てからだ。
「そっか」
愛と願いで作られていた偽りの幸せ。
無条件に続くと思っていた。
あの頃は本当に幸せだった。
だから。
02.きみの奥で揺らぐ影の正体を私は知らない
「女王陛下。彼の方が見えられました」
「ご苦労。いつもの部屋へ通してくれ」
「かしこまりました」
報せを聞いてすぐに筆をおいた。
幸い今取りかかっていたのは急ぎの内容ではない。
片付けもそこそこに、城の奥の奥に隠された小さな部屋へと足を急がせた。
「サンドラ」
客人はすでに到着しており、疲れた表情で椅子に座りぐったりと天を仰いでいた。
かつて戦場で命を救われてから、いや正直に言おう―『見逃されて』から、
こいつはこうやって人目を忍んでちょくちょく顔をだすようになった。
どういうつもりかは分からないが、こちらとしては戦で勝てないのならアルカディアとの友好関係は是非とも維持したい。
息抜きがてらこいつの雑談につきあっていたら、
いつの間にか最近は正式な同盟国となるための内々の擦り合わせまで行うようになっていた。
とは言ってもそれは平時の話だ。
「レオン。いいのか?こんな時に」
「こんな時だからだよ。先王の葬儀が終わって、犯人の処刑も済んだ。
これから近隣諸国への挨拶周りだ。しばらく国を空けることになる」
「そうか」
犯人。
アルカディア王は表向きは病死となっている。
しかし、妾腹の兄が王位簒奪を目論み王を暗殺、こいつにも凶手が送られる手はずになっていたというのは裏では有名な話だ。
だが有名とはいってもあくまで噂として留めておかなければならない情報をこうも軽く他国の長である私に話すとは。
見た目通りだいぶ参っているらしい。
「何と言うか…大変だったな。」
無難な言葉しかかけることのできない私にレオンは力無く首を振る。
笑顔をつくるのに失敗しているのは黙っておいてやった。
「実行犯はその場で処分されたし、指示を出してた者へ繋がる証拠も簡単に…
本当に簡単に見つかったから大変なことなんて何もなかったよ。」
「…そうか」
そんな泣きそうな表情で言われても信じられる訳がない。
案の定、強がりは一瞬しかもたなかったようで、レオンは崩れ落ちるように机に突っ伏した。
消えるような声が届く。
「義兄上が、最期に私の頭を撫でたんだ。何が嘘か分からない。でも義兄上は…最後まで私に嘘をついていた。」
03.優しすぎる拒絶
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04.死んでも言えない(愛しているなど)
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05. ごめんね、それが全てだ
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